マイケルの店で出会った映画の彼
数年勤めていたブラック企業をついに辞める時がきました。
当時一緒に働いていたインド人のマネージャーのあまりのひどい態度についに堪忍袋の尾が切れました。
幸い、マイケルが買ったビューティサロンで働けるので翌日からすぐにお店を移動し即働く事に。
もちろん自信があったわけでもなく、勢いでやめて来てしまって、顧客も0からスタートのだ自営業になるわけですから怖くないわけがありません。
マイケルのお店では面貸しみたいな形で私が毎週家賃を払って、自分が集客したお客さん分は全て自分の収入になるというもの。
上手くすれば働く時間は今までより短く、収入はアップが見込める状態でした。
地味でしたがこれが人生で初めての「自分の店」をもつことになったのでした。
それから何ヶ月かした頃、その人は訪れたのです。
ある日、見慣れない電話番号から着信がありました。
よく覚えていなかったのですが、番号の配置がオーストラリアのものと若干違う。
とりあえず数時間後にカットをしにくるということで予約をいただきました。
彼は初めてくるお客さんで、すらっと身長の高いちょっと変わったアクセントので話す人でした。
口数は少ないもののなんだか不思議な雰囲気を漂わせていました。
よくよく話を聞いてみると、何やら映画のお仕事でロサンゼルスから出張でやって来ている方でした。
その当時ゴールドコーストでは3ヶ月にわたってパイレーツオブカリビアンのフィルム撮影をしていたのでした。
美容師は色々な仕事をしている人に出会いますが、映画関係者に出会ったのはおそらくそれが初めてだったと思います。
しかも有名なパイレーツオブカリビアン。
ますますそのライフスタイルに興味が湧いて、どんな仕事をしていて、どんな生活をしているのか、有名人の話など結構質問攻めにしていたことでしょう。
2度目の来店は夕方でした。
彼は夜、昼間とったフィルムの編集をする仕事をしていたので、カットの後仕事に行くと言っていました。
その日は普通に会話をして、映画の話もして帰りの時間はすぐにやってきました。
カットだけなら30分もあれば終わってしまいます。
そこで彼はこんなことを言ったのです。
「帰りは歩いて帰るの?もう暗いから家まで送るよ?」
わたしは、とっさに彼もこれから仕事だろうからけっこうです、と断ったのです。
そうはいってもお客さんでしたし。
しかしそれがとんでもない方向にわたしを導きました。
気づいたらなんだかその人のことが気になって仕方なくなってしまったのです。
もともと珍しかったのもあるでしょう。
ロサンゼルスに住んでいて、映画の仕事をしていて、世界中を飛び回る仕事。
私には考えもつかない生活をしているんだろうなという興味もあり。
その人のことが知りたくて知りたくてそれから何度も考えていました。
彼の人生がかっこいいと思い、お客さんと恋愛対象の線をわたしは超えてしまった感覚になってしまったのです。
しかし彼は仕事であと数週間もすればロサンゼルスに帰ってしまいます。
髪の毛だって切りにくるのはあと1回かあっても2回でしょう。
これ以上どうやってその人を知るのか?
無理ですよね。
わたしはどうも「期間限定」に弱いのかもしれません。
次回に続く